美大や藝大の社会人コースに新しい選択肢として2020年度から開講された京都芸術大学の大学院のコースをご存知でしょうか。
京都芸術大学の修士課程「芸術研究科」の学際デザイン研究領域がその大学院のコースです。この大学院の社会人向けコースの特徴は、完全オンラインで芸術学修士(MFA)を取得できる点にあります。
※学際デザイン研究領域のみ。本領域以外はオフライン講義もある為、本領域とそれ以外では学費も異なる。(詳細後述)
同じく芸術学修士(MFA)を取得可能な美大・藝大の社会人向けコース、大学院は武蔵野美術大学の大学院である造形構想研究科があります。
武蔵野美術大学の大学院開設が2019年、その翌年2020年に京都芸術大学の大学院の当該コース(学際デザイン研究領域)が開講されたわけです。
2. 京都芸術大学のMFA(芸術学修士)の特徴
3. 京都芸術大学大学院の補足情報
1. ムサビと京都芸術大学というリカレント教育二大巨頭
近年、武蔵野美術大学と京都芸術大学は大学時代や専門学校で藝術やアートを学んでこなかった人が、社会人コース・社会人大学・リカレント教育・生涯学習の延長としてアートや芸術を学ぶ場として通信制大学を開設してきました。
どちらも毎年多くの入学者と、そして通信制大学が故の休学者や退学者を出してしまうのですが、中には二度・三度と同じ通信制大学にも入りなおす方もおられます。
社会人向けコースを通信制大学として構えていた両雄(武蔵野美術大学、京都芸術大学)が2019-2020年に相次いで大学院開講という決定に至ったのは、大きく二つの理由があると考えられます。
【理由】
❶ 何度も大学に入っていただくようなリピーターの方向け、ある意味でリカレント教育の延長線としての大学院
❷ 近年のUX(ユーザーエクスペリエンス)、BX(ブランド、ビジネスエクスペリエンス)の必要性から、高度なレベルでアートとビジネスを融合できる人材供給源としての大学院
【理由補足】
❶のリカレント教育の延長線としての大学院はわかりやすいかもしれません。
ムサビ通信や京都芸術大学通信において、リタイア後や主ふ層の方が生涯学習や趣味の延長線で学んでいたが、もっと本格的に研究創作してみたくなったものの、通信制大学という器ではそのニーズを満たしきれなかった。
だからこそ、より上位の大学院という器を用意したという流れです。
❷については、別の藝大・美大生の進学先にコンサルティングファーム(IT・総合・UX)が増えつつあるという記事でも触れていますが、昨今は企業が何かを新たに打ち出していく上でUXは欠かせないものになっています。
同時にUXについては様々な企業が力を入れている為、それは必須要素ではあるもののそれだけでは差別化ができない為、アートやデザインとビジネスをより高次元で融合できる人材が求められているという流れです。
上記二つの理由、それぞれの志望者層は異なっていそうなものですが、それもコースを複数分けることによってリカレント教育や生涯学習の延長線の方向けのコースと、ビジネスとデザインやアートを高次元で融合させる社会人(ビジネスよりの方)向けのコースは表面的に大学側がうたってこそいないもののわかりやすくなっています。
アドミッションポリシー的にも「さまざまな職業、経験をもちながら」と「社会で活動してゆく」という部分で上記に記載した二つの理由を補強する形になっています。
前者の生涯学習という意味では、リタイア後でも社会とのかかわりを持ち続ける一助にならんことをという文脈にとれますし、後者の意味では文字通り建築やアパレル、食品、医療、公共など様々なバックグラウンドをもった社会人・ビジネスパーソンに対して、アートやデザインと自身の培ってきた分野の融合を強く示唆する文章になっています。
修士課程(通信教育)では、さまざまな職業、経験を持ちながら、本学で芸術に関わる専門性を深め、社会で活動してゆく意欲を持った方の入学を期待しています。
2. 京都芸術大学のMFA(芸術学修士)の特徴
2022年時点では四つの領域と、1つの領域プログラムから構成されています。
超域プログラムについても領域扱いで専門科目が存在し、指定科目+プログラム指定の科目を修了したうえで修士論文を提出し、合格しないと卒業できない形式になっています。
それぞれの領域・プログラムを前述の❶リカレント教育の延長 ❷社会人向けコース(アート×デザイン×ビジネス)に区分けすると下記の構成かと思います。
❶リカレント教育の延長
芸術環境研究領域・・比較芸術学など、アート作品を作る企画するというよりも文献・絵画研究などをしたいというリカレント教育向け、と地域文化デザインなどの社会人向けと分かれるイメージ
美術・工芸領域・・武蔵野美術大学の大学院にも存在するアート作品作りをより高度に極めていきたい方向けのコース
❷社会人向けコース(ビジネス)
環境デザイン領域・・環境デザインや日本庭園づくりなど具体的な資格である建築士資格取得のためのコース。社会人向けであることは確かなものの、アートやデザインとビジネスとの融合というよりも一級建築士免許登録要件を充足させていくためのコース
❷社会人向けコース(アート×デザイン×ビジネス)
芸術環境研究領域・・地域文化デザインコースなど、領域の中でも社会人向けかリカレント教育向けかが分かれるイメージ
超域プログラム・・後述
学際デザイン研究領域・・個人研究というよりも課題をデザインでどのように解決するのかというアプローチからの学び
2022年4月に新設された超域プログラムの[保科 豊巳ラボ]がビジネスとアート・デザインを融合させる社会人・ビジネスパーソンを輩出するコースとして、一番近しいと思われます。
当該コースの中で行われる予定である「アートプロジェクトの比較検証」などは、このビジネスとアートやデザインを融合させるという観点では注目するべきです。
アートプロジェクトを多く手掛けたこられた方に、北川フラムさん(元女子美術大学客員教授・元愛知県立芸術大学客員教授等)がおられます。
比較検証リサーチにおいては、北川フラムさんが総合ディレクターを務めてきた「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」や「瀬戸内国際芸術祭」などの様々なトリエンナーレやビエンナーレもいい考察材料になるでしょう。
例えば瀬戸芸は、岡山県と香川県をまたがり、何より瀬戸内海を希望の海にというコアコンセプトで構成される地域芸術を超えた領域に展開するアートイベント・芸術祭であり、瀬戸内海という古来からの日本の海洋交通の要衝であったれきしから民族学探訪といった側面もあります。
さらには瀬戸内海の観光振興、DMO的な側面もあり、そこにベネッセという企業の関わり、メセナ的な観点など瀬戸内国際芸術祭というアートイベントは本当に様々な要素から構成されています。
もちろんアートイベント毎、トリエンナーレや芸術祭毎に様々な構成要素や特徴がありますが、いずれにせよアートイベントのプロジェクトリサーチを柱にしている点が注目されるべきかと思います。
3. 京都芸術大学大学院の補足情報
完全オンラインでMFA(美術学修士)を取得できるのは、京都芸術大学の大学院のすべてのコースではなく学際デザイン研究領域のみです。
また年間の学費自体も完全オンラインで取得できる影響か、他の領域やプログラムに比べるとかなり安くなっています。
□年間学費(2022)
学際デザイン研究領域: 460,000円
上記以外(芸術環境研究、美術・工芸、環境デザイン領域、超域プログラム):850,140円
※授業料には、スクーリングの教材・受講料なども含むものの一部講義などは追加納付が必要
現実的には、上記以外に年間10-20万程度が必要と思われるため、学際デザイン研究領域では60万円ほど、それ以外の領域やプログラムでは100万円ほどが必要になるかと想定されます。もちろん個人差あり。
その費用と二年間の年月をかけて、美大・藝大大学院を卒業したいか、その意思があるかが判断の分かれ目かもしれません。
□合格倍率(2021)
出願者: 193名
合格者: 54名(3.6倍)
□留意事項
京都芸術大学の大学院において取得できる学術資格は、二種類存在します。
MFA(芸術学修士)またはMA(学術修士)です。自分自身がMFAを取得したいと考えているにも関わらず、領域やプログラム選択を誤りMAを取得することにならぬよう、あるいは逆のケースが起きぬよう学位などについては問い合わせ等で確認することをお勧めします。
それではまたどこかで。
おすすめ理由:瀬戸内国際芸術祭2022は、ぜひ様々な島がどうアートと向き合っているのかその目で確認してみてください!
それではまたどこかで。