【基層文化×ボーイミーツガール】
食べ合わせのような<物語>の読み合わせ。
今回は基層文化×ボーイミーツガールという切り口で、【食べ合わせのような読み合わせ】を紹介させていただきたいと思います。
文化人類学というと、レヴィ・ストロースを思い浮かべ、民俗学というと柳田邦夫と遠野物語を思い浮かべる一方、基層文化という言葉で私が思い浮かべるのはラフカディオ・ハーンこと小泉八雲と「月の庭に神は死んだ」という作品だったりします。
◇◇本日のMENU◇
*オードブル
「月神の統べる森で」 小説
*スープ
「狼と香辛料」 小説・漫画
*メイン
「もののけ姫」 映画
*サラダ
「時砂の王」 小説
*デザート
「精霊の守り人」 小説・アニメ
なので、本日の一作目は「月神の統べる森で」から始めさせてください。
この作品に出合ったのは、小学校時代でしょうか。月間読書マラソンの企画をその当時の図書担当だった教諭の方が進めていらしたと記憶しています。
何を思ったのか、当時はチャレンジングなことをしようという思いに駆られて、月間1万ページを目指して読書を猛烈に始めた中で読んだ本の一冊です。
○「月神の統べる森へ」から
月神の統べる森で
神も、人も、精霊たちも、心かよわせ、ともに生きていた……神秘な森のとき──縄文時代。
たつみやファンタジーの源流。連作長編スタート!
はるか太古の昔。
山も、川も、木々も、獣も……みな、心をもった存在だった。人もまた、月神の統べる森の恵みを受け取って生きていた。ある時、海からきたヒメカの民は、土地をかこってクニとし、敵意をむき出しにしてムラに襲いかかった。
そして、ムラの若き長(おさ)アテルイと、美貌の巫者(ふしゃ)シクイルケは、流亡(りゅうぼう)の旅の途中、翡翠(ひすい)色の目をもつ少年ポイシュマと運命的な出会いをするのだった……。
かつて語られることがなかった神秘の縄文時代に光をあて、人々の愛と闘争を描く、たつみやファンタジー待望の新作!
【出版】講談社 【著】たつみや 章
小学校時代に読んだとき、最初はアイヌのお話かなと思っていたりもしたものですが。とても綺麗な、そしてどこか悲しみのある物語です。基層文化という切り口の中ではやはりこの物語を初めにもってきたくありました。
今回のテーマである基層文化という切り口と、ボーイミーツガールの切り口の交差点になる作品はいくつかこうほがありましたがここは「狼と香辛料」かなと思います。
神、精霊、悪魔、祖霊、そういった超自然的な要素が失われつつあり、もはや失われる最後の一滴が残る物語だと個人的には思っています。
行商人のロレンスは、馬車の荷台で麦の束に埋もれて眠る少女を見つける。 少女は狼の耳と尾を持つ美しい娘で、自らを豊作を司る神・ホロと名乗った。 「わっちは神と呼ばれたがよ。わっちゃあ、ホロ以外の何者でもない」 まるで経験を積んだ大人のような話し方で、ロレンスを巧みに翻弄する少女。 「お前は、本当に神なのか?」 最初は半信半疑だったロレンスも、やがてホロが旅に同行することを承諾する。 そんなふたりの旅に、思いがけない儲け話が舞い込んでくる。 近い将来、ある銀貨が値上がりするという噂。 疑いながらも、ロレンスはその儲け話に乗るのだが……。
【出版】電撃文庫 【著】支倉 凍砂 【絵】文倉 十
この作品について、電撃文庫ということもあり、はたまたアニメーション化、漫画化とメディアミックスに事欠かないこともあり、さらには続編シリーズが出ていることもあって、知名度も高いかと思われます。
ホロは古から生きる狼の化身であり、狼というのは様々な作品でも語られてきたように「大神」ともかつて呼ばれていたように。
大自然の中でヒトがかなわず、崇め奉った獣の王。その悲哀、あるいは雄々しき姿は現代でも様々な物語に記されています。
狼、このワードで思い浮かべるものは「黙れ小僧、お前にあの娘を救えるのか?」というセリフで著名なモロが登場するもののけ姫です。
こちらについてもスタジオジブリの作品で著名であり、見た方がほとんどかと思います。
それでもボーイミーツガールであり、かつ基層文化という点で再度紹介させてください。
中世・室町期の日本。いまだ人を寄せ付けぬ太古の深い森の中には、人語を解する巨大な山犬や猪などの神獣たちが潜み、聖域を侵す人間たちを襲って、荒ぶる神々として恐れられていた。エミシの末裔のアシタカは、人間への怒りと憎しみによってタタリ神と化した猪神に呪いをかけられ、それを解くために訪れた西の国で、数奇な運命に巻き込まれていく。森を切り開こうとするタタラ製鉄集団とその長エボシ御前、森を守る山犬一族、そして山犬に育てられた人間の少女サン。アシタカはその狭間で、自分が呪われた理由を知り……。
もののけ姫の時代は、作品の紹介にも記載されている通り、室町時代です。
室町時代というのは、武士階級が台頭しそして貴族階級メインの統治を打ち破る時代だと考えています。
逆に武士階級がメインの統治というのは江戸の初期までずっと続き、それを茶の湯やわびさびなどに代表される文化的な力で武力統治の時代から文治時代(武力は保持する)が「へうげもの」で描かれています。
もののけ姫の魅力的なところは人によって異なると思いますが、個人的には下記の言葉に魅力あるいは面白みを感じます。
「サンは森で、私はタタラ場でくらそう。 共に、生きよう。」
自然と共に生きていた蝦夷の一族であるアシタカは、どちらかといえばサンの側(自然を超克するべき存在ではなく、崇拝しともに生きる立場=自然サイド)でした。ただ、このラストシーンで決別の意を示して、(自然を支配し、克服すべきとする側≒科学サイド)に立つことを決意したと読み取れます。
「風の谷のナウシカ」でも、ナウシカやドルク帝国やトルメキア帝国のごく一部の人物たちが自然サイド、科学サイドの両方を俯瞰する立場に立った後、
○「もののけ姫」から「時砂の王」へ
烏帽子御前の姿を見ていると、あるいはサンの姿を見ていると非常に強くたくましい女性の姿が浮き彫りになってきます。基層文化×ボーイミーツガールで連想するのは次の作品です
時砂の王
〈時をめぐる大いなる戦いの果てに――著者が満を持して挑む、初の時間SF〉時間線を遡行して人類の完全なる殲滅を狙う謎の存在。絶望的な撤退戦の末、男は最終防衛ラインたる3世紀の倭国に辿りつくが……
これは「もののけ姫」とはうって変わってSFなのですが、卑弥呼が出てくるという非常に興味深い物語になっています。
「幼女戦記」が好きな一部の紳士淑女の方が好きな、絶望的な撤退戦の要素も出てきます。
○「時砂の王」から「精霊の守り人」へ
卑弥呼女王と魔女が出てくるのですが、この二人の関係性はどこかバルサとトロガイを思い起こさせるやり取りがあります。最も、バルサとトロガイは信頼関係で結ばれているのに対して、卑弥呼と裾乱れの魔女はなんともいえない関係という違いはありますが。
舞台となるのは、異界と人の世界が交錯する世界 ── 。
腕ききの女用心棒・バルサはある日、川におちた新ヨゴ皇国の第二皇子・チャグムを助ける。チャグムは、その身に得体の知れない”おそろしいモノ”を宿したため、「威信に傷がつく」ことをおそれる父、帝によって暗殺されそうになっていたのだ。
チャグムの母・二ノ妃から、チャグムを守るよう依頼を受けたバルサは、幼ななじみの薬草師・タンダの元へ身を寄せる。そして、バルサとチャグムは、タンダとその師である呪術師のトロガイから驚くべきことを告げられるのだった ── チャグムに宿ったのは、異界の水の精霊の「卵」であること、孵化まで守らないと大干ばつがおこること、そして、異界の魔物がその「卵」をねらってやってくること ── 。
帝のはなつ追っ手、さらに人の世の力をこえた危険から、バルサはチャグムを守り抜けるのか? バルサとチャグムの出会いから始まる、「守り人」シリーズの第1作。
【出版】新潮文庫 【著】上橋 菜穂子
余談となりますが、小学校の読書体験の中で図書担当だった教諭の方の影響は大きくはじめの一冊と終わりの一冊は両方とも初読は小学校時代となります。
小学校以降も多くの本を読みましたが、思い出深く残っている。あるいは影響を受けたといえるのは多くその時代に読んだ本からです。
司書であった方には多くの佳き物語を勧めていただいたことを感謝です。